DF8/小宮山尊信選手
テキスト/隠岐麻里奈 写真:大堀 優(オフィシャル)
text by Oki,Marina photo by Ohori,Suguru (Official)
小宮山の復活を待っていたファン、サポーターは数え切れないぐらいにいるだろう。
2014年シーズンは、久しぶりにピッチに小宮山の姿があった。
本職の左サイドバックだけでなく、チーム編成により時には右サイドバックや3バックの一角に起用されることもあった。
様々ポジションにトライしつつ、試合に出られる喜びを感じた2014年シーズン。
そして、届かなかったタイトル。
怪我を乗り越えて、30歳を迎えた小宮山の心にあるものは──。
2015年シーズンがいよいよ始まる。
目の前のことを精一杯やる。現状を受け入れて、今を大事にして自分がやるべきことを精一杯やる。
そういう考え方になったのは、やっぱり怪我をしたことが原因かもしれません。
僕も30歳になり、プロスポーツ選手である以上、年齢や体の調子などによって、誰もが変化を経験するものだと思いますが、若い頃にはノリだったり、もっとうまくできるだろうという漠然とした感覚でやっていたところがあったのが、もう少し客観視できるようになったのかもしれない。
2013年の途中から試合に出られるようになって、最後は左膝を痛めてしまいましたが、感覚的にはいい感触を得られることができました。
2014年は開幕戦でベンチスタートで2013年の最後の怪我からは間に合わせることができて、自分としてさらに状態をよくしていこうという気持ちでいました。ここ何年かで比べたら試合にも出られたし、充実した1年にはなりました。ただ、2014年はサッカーができた反面、最後はチームとして失速してしまったし、タイトルが獲れなかった。それは悔しいですね。自分はチームに何ができるのか、どう貢献できるのか、ということは考え続けていました。
思うことは、今が大事だし、淡々と、日々やるべきことをやることが大事だということです。今の状態を受け入れて、その状態の自分が出来うる最大のことをチームに貢献して、チームが勝つためにプレーをする。
シンプルな話なのだと思います。
ただ、最初からそういう考えをもてていたわけではありません。もちろん原因がわからずイライラしたこともあったし、自分が怪我をする前の万全な状態に戻さなきゃいけないという焦りもありました。でも、ある時に気づいたんですよね。今の状態を受け入れて、その上で何ができるかが大事だということに。みんなが等々力でプレーしているのに、自分は当たり前のようにベンチで試合を観戦している。そういう事実を受け止めてしまっている自分に気づいて、まずいとも思いました。とにかく、いろいろ考えすぎずに、今目の前のことを淡々とやることが大事なんだ、そうすれば少しずつでも先は開けていくだろうということに気付くことができました。
サッカーをやるうえでは、怪我はもちろんないほうがよいとは思いますが、今後の人生を考えたときに、得られたことはあったと思います。
耐えること、一歩一歩着実に、地に足をつけて、ということを学びました。
そして、もちろん様々な方にサポートしてもらって復帰ができたわけですが、自分自身の気持ちを前向きにしたり、メンタルをコントロールすることは結局のところ自分しかいない。自分のことなんだから当たり前ですけど、そのことにも気付くことができました。
悔しさを感じながらも、それでもサッカーでパフォーマンスをあげて評価されなければいけないし、選手ですから試合に出て、そして勝つことを味わいたい。そのためには、どんな時でも強いメンタルが必要なんだ、そして最後は自分の責任で自分がなんとかするしかないんだということを、改めて感じた日々でした。
こういう話は、インタビューを受けたから答えてはいますが、僕としては普通に、淡々と、日々楽しくサッカーをやっていますし、プロとして仕事として、チームが勝つために貢献しなくちゃいけないというのは当たり前のことです。
だから、殊更に怪我を乗り越えたからどうか、ということを語る必要はないと本当は思っています。
単純に、やるべきことをやる。
答えはシンプルな話です。
2014年は、プレーの面では新たなチャレンジや経験ができた年でした。
攻撃的なサッカーを風間さんが標榜しているなかで、個人的には振り返るともっとゴールシーンに絡まなければいけなかったという点は反省としてあります。チームとしてもいい時の状態を継続できず、失点も多くなり、それはサイドバックとしての僕としては攻守において絡むポジションなので両方追求していく必要があったと思います。
まず、一番やらなくちゃいけないのは「個」で、どれだけできるかが大事。例えばパスを使わなくてもひとりで抜いて点を取れてしまえばいい場面もあるだろうし、守備でも自分が守りきれたらいい。とはいえ、現実的にはそれは不可能なわけですが、その質をあげていかなければいけないと同時に、人を使って自分のバリエーションを増やしたり、引き出しを増やすことが必要。
2014年は、守備においては、ポジショニングが悪くて失点に絡んだりすることもあったので、頭の中の意識だけじゃなくて、個のスキルを上げていかなければいけないということを痛感しました。
2014年は、様々なポジションで試合に出たということは、ひとつの自信にはなりました。
試合に出るということが選手にとっては大事だし、試合に出ないと学べないことはたくさんある。今のフロンターレのサッカーをやるに当たって、ポジションがひとつしかできないと柔軟性に欠けてしまうということもある。もちろん左サイドへのこだわりはありますが、それ以上に得ることもありました。それに、今のフロンターレでどれだけ出来るかが大事なので、自分のこだわりも持ちつつも、チームが勝つかどうかがそれ以上に大事です。
右サイドで出た時、最初はやはりやりずらかったです。
でも、右サイドでドリブルで仕掛けた時に、気付いたこともありました。右サイドのほうが、深い位置まで踏み込めたりと、足が不安なくやれる時期もありました。やってみなければわからないそうした発見もありましたし、右でも出来ると思えたので、今はどちらでプレーしても出来ると思っています。
3バックに関しては、自分がそのポジションをやっていることに違和感もありましたが、まぁ、見ている人もそうだったと思うのですが、プレーしている時は、1対1では目の前の人に絶対やられないという仕事はハッキリしているので、集中しましたし、個のポジショニングが勝敗を分けてしまうことになるので、より高い集中力の持続が必要になると感じました。3バックに関してはその時のチームの必要性で出た部分もあったと思うので、今後はわからないですが、とはいえ、やったことのないポジションに入ったことで、サイドバックとの連携で逆に求められていることも知れた、という発見がありました。
様々なポジションをやったわけですが、やはり選手は試合に出て勝つ喜びがものすごく大きい。それに尽きます。その瞬間のために日々の練習があるので、そういうことを味わえたことはやはり嬉しかったです。
一方で、昨年はチームとしては5月ぐらいからいい流れが出来て、その後、メンバーが代わっても勝てるようになり、いい方向で進めていたのが、最後は怪我人が増えたり、結果、失速してしまった。いいイメージがあったがゆえに、みんな出来ると思っていたはずですが、そのいいイメージを越していく技術や質が必要だし、最後はそれが足りなかったのかなと思います。
じゃあ、どうすればよいか?
答えは、結局、練習しかないと思います。
戦う気持ちと技術。
勝つために必要なことです。
大事な場面でやられなかったり、決めたり、という「ここ」という部分の意識の高さ、全員で士気が上がる雰囲気だったり試合で声を掛け続けることだったり、勝負が決まる一瞬を個人でカバーするのとともにチームでカバーする。もしくは、そうした気持ちの面を凌駕するぐらいの技術力を身につける。それしかないんじゃないかと思います。
2014年、もったいない負け方、失速をしてしまったというのは、みんなが痛感していること。みんな向上心をもって日々取り組んできたので、それをもう一回トライしていく。最後のところは「個」のスキルアップ、各選手がやるしかないんだと思います。
個人的にも、2014年はある程度の試合に出て、そこで出た反省点を活かす。自分の持っている能力をさらに高めて成長していく、そしてチームに還元できるような選手になっていきたいです。そして、「ここ」という場面が必ずまた出てくると思うので、そこでちゃんと仕事ができる選手にならないといけないと思っています。
あとは…、サッカーがうまくなりたいです。
子供の頃からそこは変わりませんが、今、風間さんのサッカーはうまくないと試合に出られないという緊張感があります。自分の力を目の当たりにする日々だし、いかに技術を伸ばしていけるか、判断を早くしていくか、ということが求められている。判断がもっと早ければ、取られることもないだろうし、みんながダイレクトだと思っているところで自分がとめてしまう時もあるので、さらなる成長、うまくなることを追及していきたいと思います。
2015年、ホームスタジアムである等々力が改修され、その第一歩となるシーズンが始まります。ここ数年で、フロンターレは2013年は最後にACLのチャンスをつかみ、2014年は、いいサッカーが構築されていたところで、最後に結果で出ず失速してしまった。いいところも悪いところも味わった数年間でした。
2015年は、新スタジアムといういい後押しを受けて、結果を出すシーズンにしたい。
個人的に、自分自身がやるべきことは変わらないですが、新たなメンバーも加わり、日々の練習でいいプレーをしなければ試合に出られないので、より一層チームに役に立てる選手になりたい。
そして、フロンターレに長年いる自分が、チームを助けるような働きがしたい。
今、フロンターレはスタジアムも新しくなり、クラブが大きくなっていることをこの5年間で見てきて、やはり本当にひとつタイトルが取りたいと強く思います。
取れるチャンスを自分たちで落としてしまった部分もあるので、今年は本当に獲りにいく。そのためにどうするか、という正解はわかりません。でも、自分たちを信じてやり続けるしかないと思っています。
未来に起こるいいことを信じて、今、目の前のことを全力でやりきる。
それに尽きると思います。
対人プレーの強さと攻撃参加のタイミングの良さが光るDF。ここ数年は膝の痛みに悩まされていたが、昨シーズンはコンディションも安定しコンスタントに出場を果たすなど、小宮山尊信本来のプレーが戻ってきた。左だけではなく右サイドバックもこなす貴重な存在として、ピッチでさらなる存在感を発揮してもらいたい。
1984年10月3日、千葉県
船橋市生まれ
ニックネーム:コミ